水島生産スタート! 試作車を量産ラインで製造するチャレンジ
決起集会を終え、いよいよ初めての試みとなる量産工場における試作車製造のスタートである。成功すれば量産と同じ製造ラインを使うことで、試作から量産への工期・コストを格段に圧縮できる。一方、現行車も製造している量産ラインでは、品質を向上させるためのいわゆる“品質玉成”作業が困難で、場合によっては現行車の生産そのものに悪影響を与えてしまう恐れもあった。しかし結果的には、日産自動車が提示した非常に高い品質目標を最初の試作車でみごとにクリアすることができたのだ。
森PM
ではなぜ、両社が経験したことのない新しいスキームの中で、大幅な遅延もなく高品質を実現できたのか? いくつか要因はあるが、一番は「会社を超えた密なコミュニケーションにあった」と、生産全般の取りまとめを担当する森PM(Project Manager)は振り返る。そうしたマネージメントと担当レベルが一体となったコミュニケーションを支えたのがQRQC(Quick Response Quality Control)、QRQE(Quick Response Quality Engineering)活動だった。毎朝夕、日産自動車と三菱自動車のキーメンバーが顔を合わせて最新情報と課題を共有し、迅速な方向性の決定を繰り返した。この活動には、連携ミスや放置されそうな課題にも積極的にアプローチして解決していこうとする土壌をつくる副次的な効果もあったという。
また、工場試作を決定した当初より、新スキームの中で膨大な数の課題が出ることを予測できたので、事前の課題解決に向けてチームを立ち上げた。品質向上のための体制づくりや、標準・基準の理解活動、工場試作における秘匿対策など、そのチーム数は21に及ぶ。さらには、日産自動車の指導の元、“ロット内改善”の手法も取り入れた。試作を続けながら、試作ロット内で並行して品質を日々改善していく手法である。これにより、短期間で品質の達成レベルが格段に上がった。
横山 管理部担当部長
初めて試作車を製造ラインに投入した際には、日産、三菱、関連会社のべ3,000人の開発者が水島製作所に集結した。「これだけの者の来訪は過去に例がない」と、水島製作所管理部の横山担当部長は当時の驚きを口にする。通常の量産開始時の来訪は数人~数10人程度なので、その驚きは想像に難くない。各所から訪れた開発者たちが試作車の周りに群がって製造ラインをぞろぞろと車とともに進んでいく姿は壮観だったという。
このような予想以上の結果を出せた背景には、今回の新型車が「非常にチャレンジングな開発だったこともある」と、NMKVサイドから今回のプロジェクトを支えるNMKV高木GM(General Manager)は分析する。新開発エンジンと新開発CVTを搭載し、安全装備や電装は日産自動車の現行登録車に匹敵する最先端仕様。ほとんどの部品が新設計である。技術的に難易度が非常に高い開発をクリアしたいという技術者魂が、開発にも製造にも、強い目標達成マインドを醸成した。
高木GM
そして、このチャレンジは量産への移行を判断する会議をクリアするまで続く。ここで「量産可」と判断されれば、水島製作所でいよいよ本格的な新型車の生産が始まることになる。「ここが正念場」(高木GM)と言いながらも、その眼は大きな自信にあふれていた。