「三遊間」を確実に守る、水島軽新車推進室の役割

三菱自動車 水島製作所

デジタルフェーズの完了目前の2017年6月、「水島軽新車推進室(以下、推進室)」が立ち上げられた。NMKVの生産プロジェクト、三菱自動車の商品生産化プロジェクト、そして水島製作所管理部の部長級3名をリーダーとする推進室の基本的な役割は、日産自動車・三菱自動車両社の新型車製造にかかわるスペックや工程の考え方、工法計画書などをひとつに取り纏めることである。また、日産自動車と三菱自動車ではそれぞれの組織や工程が異なるため、両社の間に必ず隙間ができる。そうした「三遊間」のような抜けを防ぎながら、両社の機能を最大限に生かす共通の開発・生産工程の標準モデルを作ることが求められたのだ。

前半の具体的な活動は、定置艤装車(ライン艤装前の最終組み付けロット)に向けて2社間のプロセスギャップを洗い出し、効率的な対応方法を検討することだった。並行して、フィジカルフェーズに必要なものをすべて洗い出し、さまざまな抜け漏れをすくい上げていく。メンバーは、日産自動車と三菱自動車を行き来しながら、日産自動車の開発部門から出てくる図面情報をNMKVが通訳して三菱自動車の生産部門に繋ぐというような擦り合わせの日々を過ごした。

西山CPEO

最大の困難は、両社それぞれの標準スペック類の共有だった。たとえアライアンスの関係にあっても十分な情報開示がされない場合もある。「そのようなケースでは、あるときは水島、またあるときは厚木と月に何度も推進室メンバーが集まって両社スペックの刷り合せを続けました。これは非常に根気の要る活動でした」と西山CPEO(Chief Production Engineering Officer)は振返っている。

しかし、この取り組みの結果、両社のプロセスを見比べて工程や会議の統合、よりよい指標の採用などさまざまな合理化を図ることができた。そして、両社の工程を徹底的に合理化・標準化して見える化することで、アライアンスの中での見本ともいえる開発と生産の標準モデルができあがりつつある。「この手法は軽自動車以外の他車種でも展開していけるのではないか」と西山CPEOは語る。その成果は、試作車の段階での高い品質を実現できたことからもうかがい知る事ができるという。

この試作段階が完了すると、今度は水島製作所が主体となるロット生産が始まる。このロット生産でも同じく課題の洗い出し、橋渡し、取り纏めが続くのだ。ここからは、さらに日産自動車の生産部門も巻き込んでの活動である。こうして、一歩一歩、本格量産に近づいていくのである。