資材費低減活動

今回は、NMKVが三菱自動車、日産自動車と取り組むコスト改善活動である、資材費低減活動についてご紹介します。NMKVのゼネラルマネージャーとして活動全体を統括する田中敦士、そして三菱自動車から伊藤繁(VFG1リーダー)、伴和義(VFG2リーダー)に話を聞きました。

▲写真左から/伴、田中、伊藤

クルマの競争力を大きく左右する資材費低減活動

- そもそも資材費低減活動とはどのような取り組みなのでしょうか

田中:資材とは鉄板や塗料、加工品など外部のサプライヤー様から購入する材料や部品のこと、資材費低減活動とはこの資材の費用を適正化し、商品力を向上させる活動です。クルマの原価のなかで、資材費は7割を占めています。クルマの競争力を高めるには、価格が重要な要素の一つです。価格の適正化のためのコスト改善において、資材費低減は重要な課題です。

- 以前取材したTECO活動も、資材費低減活動の一環なのですね(TECO活動はこちら)。では、どのような側面からコスト改善をおこなっているのでしょうか。

田中:切り口は大きく三つ。「コマーシャル」と「テクニカル」そして「生産」です。まず、「コマーシャル」ですが、これは、サプライヤー様との価格折衝の活動です。単なる値下げ交渉ではなく、見積もりを取り、資材の製造ラインを調査し、サプライヤー様各社のベンチマークを比較し、その価格の妥当性を検討します。一次お取引先様だけでなく、その先の二次お取引先様の価格にも踏み込んで検討することもあります。
次に、「テクニカル」ですが、VE(Value Engineering)と呼ばれる、技術的にコストを下げる活動です。図面や仕様を見直し、適正な変更を加えることでコストを低減します。
最後に「生産」。これは、サプライヤー様の製造コストを改善する活動です。実際の製造ラインを見せていただき、改善できるポイントを見つけて提案します。過剰品質のために不良率が上がっている場合などでは、適正な品質に見直すことを提案し、コスト低減に結びつけます。取材されたTECO活動は、この3つのうち主に「テクニカル」と「生産」にかかわる取り組みになります。

多様な資材にわたりアイデアを具現化する資材費低減活動

- 大きく3つの切り口で、取り扱う資材も様々だと思われるのですが、どのような体制や役割分担で活動に取り組まれているのでしょうか。

田中:VFG(Vehicle Function Group)を冠にした複数のプロジェクトグループを作って推進しています。私たちNMKVのメンバーがVFG0で、活動全体を統括・マネジメントしています。実際の資材費低減活動は、クルマの部品をボデー、内装、電子、シャシー、エンジン、駆動部品の6つに分類しそれぞれの担当をVFG1〜6と名付けて活動しています。これらは三菱の社員で構成されています。

- それでは、それぞれのチームの取り組みをご紹介いただきたいのですが、まず、伊藤さんはVFG1のリーダーとして、ボデー部品の資材費低減活動を担当されているのですね。

伊藤:はい、そうです。板金部品の骨格、それに付随するワイパーモーターなどの個々の要素部品やバンバーやガラスなどの外装、ヘッドランプをはじめとするボデー電装などを担当しています。部品点数がとても多く、サプライヤーもかなりの数になります。その1社1社と、毎月、SWS(Supplier Work Shop)というコスト改善活動を実施し、資材費低減に結びつくアイデアをどんどん具現化しています。たとえば、板金の小物部品では、お取引先様である程度溶接してから、アッセンブリ、つまり複数の部品を組み合わせて納入していただく部品があります。この場合、それらの溶接工程の最適化なども提案します。部品数が多い上に踏み込んだ提案なども行っているので、かなり広い分野にわたる資材費低減活動を行っていることになりますね。

- 伴さんがリーダーを務めるVFG2では、どのような部品や材料を扱うのでしょうか。

伴:内装関係、インテリア、車内の内張全部、例えばシート、インパネ、助手席用エアバッグやカーテンエアバッグなどですね。基本は樹脂部品ですが、複合的な部品も少なくありません。たとえばインパネは、表面は樹脂で中には板金の補強、メーターやオーディオをつけるためのブラケットなどを組み合わせた構造体になっています。こんなふうにアッセンブリされた部品の場合は、お取引先様のラインを実際に見て、無駄がないかを確認していきます。部品を取りに行くのに何歩歩いているか、組み立てる順番を変えたら時間がどう短縮できるか、その単位の工夫でも積み上げると大きな改善につながるのです。

- それはずいぶん細かいですね。部品の数も仕様も様々なようですから、これは相当な経験や知識が必要になる気がしますが。

田中:そうかもしれません。確かにこの活動チームは全体的にシニア層が多いかな。

伴:ええ、平均年齢ちょっと高めですね(笑)。

両社に橋を渡し成果に結び付ける「NMKVモデル」

- 資材費低減活動は2013年度に始まり、2年目を終えたわけですが、皆さんのお顔を拝見すると、相当成果があったように見えます。

伊藤:そうですね。例えば、私のところではバンパーの材料を根本的に変えました。三菱は他社に先駆けてバンパーの樹脂化を行ったのですが、独自の素材を開発し採用したため、価格競争力がいまひとつでした。そこで、思い切って汎用性のある材料に切り替えて、生産性を向上させ、価格を下げることに成功しました。途中で材料を変えるのは非常に困難を伴いますが、やってよかったと胸を張れるほどの高い効果を得ることができました。また、板金関係では、プレス加工のための金属板切り分けを最適化しました。これもまた大変な作業でしたが、一つの車種だけの改善ではなく、今後の車種すべてに活かせるノウハウになったので、こちらも大きな成果と言えますね。

伴:私のわかりやすい例では、ヘッドレストにつけるビニールカバーを廃止しました。カバーをやめるだけなら簡単そうですが、シートは、製造、一時保管、搬送・納入、組み付け、ディーラーへの移送といくつもの段階を経てお取引先様の手に届きますから、この間に汚れが発生するリスクがすべて排除できなければなりません。このために1ヶ月間かけて、各工程を試行しました。NMKVを経由して日産自動車や日産のディーラーの方々にご協力いただき、日産自動車でも問題のないことを確認できました。

- すばらしい成果ですね。この活動はNMKV、日産、三菱の三社だけでなく、サプライヤー様の協力も欠かせないですね。

伊藤:サプライヤー様との協力体制を築くことは本当に重要です。営業部門だけでなく、製造現場の方々も交えて議論をするとか、先方の社内調整にも積極的にサポートさせて頂くなど、信頼関係を強めました。

伴:ラインを改善する場合には、ただ単に効率化して原価を下げましょう、ではなく、効率化でできた人材に適した業務の提案を行うことによって理解を得るといったケースも多くありました。

田中:TECO活動でも説明がありましたが、サプライヤー様と成果を50:50で分け合うのは活動全体の大前提です。ですから、効果があると思えばその提案を行います。関わった全員が成果を分かち合えることが、この活動のすばらしさだと思います。

- まさにWin-Winの関係ですね。各チームがそのような取り組みをされる中で統括する立場のNMKVはどのような役割を果たしたのでしょう?

自社と競合他車の部品を一堂に、改善アイディア
を抽出する展示会も実施しました。

田中:両親会社の直接の関係だけでは実現が難しいことをNMKVが両社に橋を架けて融合させ、実現可能にすること、これに尽きますね。2014年度の大きな取り組みとして、「見栄えアイデアの合同評価会」というイベントを実施しました。この評価会の評価者は、日産と三菱の営業、開発、デザイン、商品企画などの担当者や、NMKVの役員です。私たちは、彼らの前に、内外装など「見栄えの部分」に資材費低減の数十のアイデアを盛り込んだクルマを作り、お披露目して、評価をいただきました。評価者はそれぞれの意志決定者ですが、これだけの人を一堂に会して短時間で結論を出すことは、普通はできないでしょう。しかし、実際にこの評価会では、多くのアイデアが評価され、その場で採用を決定されました。こうした場を作ることができることとそこで意思決定がなされること。これこそがまさにNMKVの存在意義ではないかと思います。

- すごいお話ですね。今後もさらに期待できそうです。

田中:資材費低減活動で削減できたコストを原資として商品力を強化する。そして販売台数を増やし、スケールメリットを生んでさらなるコスト低減を実現する。こうした良い循環を作り出して、軽自動車の厳しい競争を勝ち抜きたいと思っています。
そのためには、資材費低減活動の継続と向上が重要だと思っています。その成果を2015年度版の「見栄えアイデアの合同評価会」で出せるよう、しっかり活動を推進します。

- 本日はありがとうございました。

2015年3月インタビューより ※掲載の所属、役職はインタビュー当時のものです。